福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1580号 判決 1950年7月19日
被告人
榎本憲一
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役六月に処する。
原審における未決勾留日数中、四十日を右本刑に算入する。
但し、この裁判が確定した日から三年間、右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(イ) 被告人の控訴趣意(一)について。
しかし、昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件」は旧憲法第八條に基き発せられた緊急勅令であるが、その後、議会において承諾せられ、旧憲法上法律と同一の効力を有するに至つたものであつて、その内容が新憲法の條規に反するものとはいえないから憲法第九十八條により新憲法施行後もなおその効力を有するものというべきである。されば右昭和二十年勅令第五四二号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件」に基ずき、同令に基ずく政党、協会その他の団体の結成の禁止等に関する件(昭和二十一年勅令第一〇一号)を改正して公布された団体等規正令の有効であることは論を俟たない。
論旨第一は理由がない。
次に団体等規正令は日本における平和主義及び民主主義の健全なる育成発達を期するために、政治団体の内容を一般に公開し、秘密的、軍国主義的、極端な国家主義的、暴力主義的及び反民主主義な団体の結成及び指導並びに団体及び個人のそのような行為を禁止することを目的とするものであり、わが国がポツダム宣言に定められている諸條項を誠実に履行し、且つ降伏文書に定められている降伏條項を忠実に実施するために連合国最高司令官が必要であるとして日本政府宛に発した一九四六年一月四日附覚書に基ずき、その趣旨を体して採られた措置を内容とするものであるからそれがポツダム宣言もしくは憲法の條規に違反するものでないことはいうまでもない。されば法務総裁が同令に基ずき、同令第四條第一項にあたる団体として、そうした朝連の解散指定が、ポツダム宣言あるいは憲法に違反するとの論旨もまた理由がない。
(ロ) 弁護人荒木新一の控訴趣意第一の(一)について。
しかし、昭和二十年九月二日以降引続き日本に居住する朝鮮人は、将来、平和会議並びにそれに締結せらるべき日本と韓国との間の條約によつて韓国の国籍を取得する権利を有するものではあるが、それまでは日本の国籍を有し、実質的にはすべての点において(選挙権及び公職につくことを除き)日本人であるから、その朝鮮人の団体である朝連が団体等規正令の適用をうけることはいうまでもない。されば、朝連が同令の適用をうけないことを前提とする論旨は理由がない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)